2017年03月21日

【ポーカー小説】エドワード・ゲイツにAAは要らない 後編

毎度拙者でござる。

今回はポーカー小説「エドワード・ゲイツにAAは要らない」の
後編でござるよ。(前篇はコチラ

何度も同じトーナメントを繰り返す事になったゲイツ氏。

果たして彼はこのループから抜け出せるのか、
そしてその先にある意外な結末とは・・・。

それでは後編スタートでござる。

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【十二回目】

何度も何度も同じ時間を繰り返し、
ついに私はHU(ヘッズアップ)までたどり着いた。

相手は私より十は若い、生意気そうな金髪の青年だった。

しかしこれまで飛び寸前でなんとかここまでたどり着いた私と、
ずっとチップリーダーに君臨して来た彼の間には、
圧倒的な勢いとチップ量に差があった。
これをひっくり返すには、これまで以上の繰り返しが必要だろう。

二十回、二十五回、三十回。
その内に今が何回目かすら分からなくなった。

一回負けるとまたトーナメントを一からやり直さなければならないのだ。
気が狂いそうだった。

睡眠薬の量はどんどん増え、それと比例しての量も増えた。
洗面所の鏡の中には亡霊の様な男の姿が映っていた。
それでもすべてのハンドとボードをひたすら記憶し、
針の糸を通す様なわずかな勝機を探した。

やがて私のチップは少しずつ彼に追いついて行った。

そして数え切れない程の繰り返しの果てに、
ついに私のスタックは相手よりわずかに上を行った。

金髪の若者は相当にイライラしている様子だった。
無理もない、チップ量三分の一に満たない所から逆転されたのだ。

「レイズだ。メイク・・・」

彼は私のプリフロップレイズに3ベットを被せて来た。
私のハンドは♦K♦Q。そのままコールした。

フロップ:♠K♦T♦4

Kがペアになった。
それを知ってか知らずか、金髪の彼はポットベットして来た。
当然私はそれに対して三倍をレイズする。

彼は少し考えると、

「オールイン」

そう宣言した。

「コール」

私もそれを受ける。

♠A ♣A

彼のショウしたハンドはAAだった。
またここでやり直しになってしまうのか?
いや、まだ私にもフラッシュやツーペアの可能性がある。

ターン:♠K♦T♦4 ♠J

落ちたのはJ。まだ分からない。

リバー:♠K♦T♦4♠J ♣9

リバーに落ちたのは9だった。
奇跡的に私はストレートを引き当てたのだ!

「優勝はエドワード・ゲイツさんです!!」
フロアマネージャーがそう宣言した。

終わった、ついに終わったんだ。

会場に大きな拍手が鳴り響いていた。
しかしその音はどんどん遠くなって行く。
そして私は自分の体がスローモーションの様にフロアに向かって崩れ落ちて行くのを、
まるで他人事の様に感じていた。



(エディ、私のお腹にね・・・新しい家族が出来たのよ)
(だからお願い、もうポーカーの事は諦めて・・・)

(止めてエディ、何をするの。どうしたの突然、止めて、止めて!




叫び声を上げて私は目を覚ました。

部屋の中は真っ暗だった。
ここはどこだ、私はあのループから抜け出せたのか?
あちこちを手探りしている内に、何かのスイッチに触れ灯りが点いた。

「ここは・・・?」

そこは見覚えのある部屋だった。だがあのホテルではない。
私が目覚めたのはまぎれもなく自分の家、
レイクサイドヒルの安アパートの一室だった。

あわてて枕元に置いてあった時計で日付を確認する。

『七月四日』

またいつもと同じだった。
だがここはあのホテルの部屋ではない。
という事は・・・。

全て夢だったのか。

私はほっと息を吐いた。
ずいぶん長い夢を見ていたものだ。
すっかり喉がカラカラだ。
私は冷蔵庫からバドワイザーを取り出し、
それを口にしながらテレビを付けた。

『ノバマ大統領は本日の独立記念日のパレードに参加し、
その後集まった聴衆に対して演説を行い・・・』

思わず耳を疑った。
去年行われた選挙で、
大統領はノバマからクリンプに代わったはずだ。

まさか。

私は慌てて新聞の日付を確認した。

『二〇××年 七月四日』

それは去年の日付だった。

もう何がなんだか分からない。
今度は一年前に戻ってしまったとでも言うのか?
では今度はこの一年前の七月四日を何度も繰り返さなければならないのか?

頭をかかえ、部屋の中をうろうろしている内に、
私は大事な事に気が付いた。

ケイトだ。

この時はまだケイトと一緒に暮らしていた。
そしてこの独立記念日の夜、彼女と何か大切な約束をしていた気がする。

嫌な予感がした。

何だ? 何かとても大切な事だった。
しかし思い出せない。いや、思い出したくない・・・。

いつの間にか体中にびっしょりと汗をかいていた。
ケイトに電話をかけてみた、しかし繋がらない。

私はいても立ってもいられなくなり、外に出た。
外はもうすっかり日が暮れており、
どこか遠くで独立記念日を祝う花火があがる音が聞こえていた。

そのままトヨタを走らせて、近くの湖に向かった。
何故だかは分からない。もちろんそんな所にケイトがいる訳がない。
いや、いないならそれでいい。いない事を確認したかった。

湖には三十分程で到着した。
良く二人で訪れた場所だ。
あの時もケイトと二人でここに来た。

・・・あの時?

あの時とはいつだ、ケイトがいなくなる前か?
いやケイトがいなくなったその日の夜も、ここに来なかったろうか。

頭の中が溶けて行きそうだった。

Sはとっくに切れていた。
体が何かねばねばした物にまとわりつかれている様だった。

行くな。行っては駄目だ。
どこからか、そう声が聞こえた。

だがどうしても確かめたい。
ケイトがここにいるのか、いないのか。

湖のほとりから道をはずれ、
真っ暗な道をしばらく歩いた所に朽ちたボート小屋あった。
誰も近寄らない私とケイトだけの秘密の場所だ。

入り口の扉には鍵がかかっていた。
だが私は知っている、すぐそばの植え込みの下に鍵はある。

私は震える手で、そっと扉を開いた。
そのとたん中からは物凄い臭気が漂ってきた。
思わず吐きそうになるのをこらえて、私は扉の中を覗きこんだ・・・。

何もない。

部屋の中にはただがらんとした暗闇だけが広がっていた。
ケイトはいない。やっぱりただの思い過ごしだったのだ。

安堵したとたん体が急に軽くなった。
私は扉を閉めると、元来た道を戻ろうと振り返った。

「フリーーーズ!!」

突然大きな声と共に、無数のライトが私に向かって照らされた。
いつの間にかボート小屋は大勢の人間に取り囲まれていた。
そしてそのほぼ全員がこちらに向かって銃を向けている。

私があっけにとられ、文字通り凍りついていると、
やがて光の向こうから二人の男が姿を現した。

「こんな所に隠してやがったのか。どうりで見つからない訳だ」

それはあのトーナメントで最後にHUで闘った金髪の青年だった。
しかし若者の胸には保安官のバッジが光っていた。

そしてその横にいるのはカジノのフロアマネージャーだった。
フロアマネージャーはがっくりと肩を落とし、
憔悴しきった顔をしていた。

「おお、ケイト・・・可哀そうに」

その目から大粒の涙がこぼれ落ちた。

ケイト? 
何の事だ、ケイトはここにはいない。

「何言ってやがる。良く見てみろ、このジャンキーが!」

保安官がそう言って乱暴に私の後ろの扉を開いた。
そしてハンドライトの光を扉の中に向けると、
とたん何十匹ものネズミが蜘蛛の子を散らすようにそこから逃げて行った。

その下から現れたものは・・・

私は悲鳴を上げ、そのまま意識を失った。



「やれやれやっと解決しましたね保安官」

気が付くと私はパトカーの中で両手両足を拘束され、
どこかに連れて行かれようとしていた。
前の席でさっきの保安官とその部下らしい男が話しているのがぼんやり聞こえた。

「まったくだ、こいつのおかげで俺は何日もポーカーをやらされるハメになったんだ」
「でも何もこんな大げさな事をしなくても、
ちょっと痛めつけてやればそれで良かったんじゃないですか?」

それを聞いた保安官は首を振った。

「ヤクのせいか知らんがこいつは死体の隠し場所どころか、
自分が女房を殺した事すら忘れちまってたんだ」

吐き捨てるようにそう言った。

「そこで彼女の父親、実業家のマイルズさんは
にせのポーカー大会をでっちあげてなんとかこいつに
ケイトさんの事を思い出させようとしたのさ。
こいつが寝た後で時計の日付を戻し、
カードもまったく同じものが配られる様に細工した。
数百人のエキストラを雇って、時間が巻戻ったかの様に錯覚させたんだ」

すごい大がかりでしたねと、部下の男は言った。

「執念だな。娘を探し出したい、その一心だったんだろう。
ま、だからこそ俺も協力しようと言う気になったんだが」

私はようやく総てを理解した。

時間が戻っていたのではなかった。
あのポーカー大会は全て仕組まれたものだったのだ。

そしてあのフロアマネージャー、
以前どこかで会っていた気がしていたがそうではなかった。

彼はケイトに似ていたのだ。ケイトの父親だったのだ。

私が真相に気が付くと、それと同時に今まで忘れようとしていた事が
頭の中にまざまざと蘇って来た。

私はあの時ケイトに、もうポーカーを辞めてくれと言われたのだ。
そしてお腹の中に子供がいるという事も。

そして私は、私は・・・

再び私の口から絶叫がほとばしった。
私は車の窓やシートに何度も何度も頭を打ち付けた。

「暴れるなこいつ、おとなしくしろ!」

いくら言われても止められなかった。
やがて保安官達に押さえつけられ、
めちゃくちゃに殴られて気絶するまで私は頭を打ち続けた。





真っ暗な部屋の中で私は目を覚ました。
ここはどこだ?
ホテルの部屋か、アパートか、それとも刑務所の中だろうか。

私はもうそれを確かめる気力もなく、再び目を閉じた。

             〈了〉

***************************************

さていかがだったでござるかな?

今回は外国の翻訳ミステリーっぽい文体を意識して
書いてみたのでちょっと硬い感じでござるかな?

ぜひ感想を聞かせていただけると、拙者感激でござる。

そでは今宵はこれまで。次回まで御免!!



posted by 桃太郎侍 at 20:47| Comment(0) | ポーカー小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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