2017年04月15日

【ポーカー小説】死のストレートフラッシュ 後編

さあ出かけよう〜、一切れのパン〜♪
ナイフ、ランプ、カバンに詰め込んで〜♪

いたら、職務質問された拙者でござる!!
ナイフにランプにオイルとマッチ、
テロリストと見なされても仕方ないでござるな。

「ラピュタは本当にあるんだ!!」
などと意味不明の供述を繰り返しており・・・。

それはさておき、今回はポーカー小説
「死のストレートフラッシュ」の後編でござる。

ストフラを完成させたのに、男は何故死ななければならなかったのか?

皆さんの予想は当たっているでござるかな。

それではどうぞ〜。

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死のストレートフラッシュ 後編sideA

早く話せと催促するナマズに,
俺はちょっともったいつけて話し始めた。

「中津さん、この世界にはいったい
何種類くらいのポーカーがあるか知っていますか?」
「は? ポーカーと言ったら、あのポーカーしかないだろうが」

ナマズの言っているあのポーカーが何なのかは分からないが、
恐らく普通のドローポーカーの事だろう。

「残念。ポーカーには世界中で様々な遊び方があり、
細かいルールの違いも含めると百種類以上は下らないと言われています」
「そんなにあるのか」

「ええ。そして二人が行っていたポーカー、
これは恐らく普通のポーカーではありません。
2-7シングルドローです」
「ジングル? いったい何だそりゃ?」

「ジングルではなくシングルです。
ポーカーの中には役の弱さを競うローボールと言うゲームがあるんです」
「それは初耳だ」

ローボールには今言った2-7シングルドロー以外にも
トリプルドローやラズと言ったものがある。
しかしいずれも一般的には馴染みが薄く、
世界でもこれをプレイしているのはポーカー人口の中でもほんの一握りだろう。
ナマズが知らなくても無理はない。

「今言った2-7シングルドローは
役が弱ければ弱い方が勝つゲームなんです。
つまり一番強いのが何も出来ていないブタで、
次がワンペア、ツーペアと言う順になります」
「なるほどそうか、それならAのストレートフラッシュは最弱と言う事になるんだな。
ならBが勝ったのも頷ける」

ナマズはやっとこれで謎が解けたと、すっきりとした顔でそう言った。
だが、俺はこの事件はそれ程単純ではない様な気がしていた。

「けど、本当にそれだけでしょうか?」
「何だ、まだ何かあるのか」

俺には一つ気になっている事があった。

「2-7シングルドローは世界大会の種目にもなっているとは言え、
かなりのマイナーゲームである事は間違いありません。
それを命が懸かった勝負の種目にするという事は、
恐らく二人は普段からこのゲームをやり慣れていたはずです」

あえて二人ともやった事がないゲームを選んだという可能性もあるが、
それは少し無理がある。
二人にとって普段から非常に馴染みのあったゲームだと考えた方が自然だ。

「しかしそれにしてはゲームの進行が少しおかしいのです。
Aがストレートフラッシュでオールインするのも変ですし、
Bがそれにワンペアでコールすると言うのも不自然です」

二人が行っていたのが本当に2-7シングルドローであるなら、
ストレートフラッシュはもちろん、ワンペアでさえも
即座に投げ捨てるような弱い手だ。
通常のリングゲームならお互いにブラフをした結果
そうなる事もあるかも知れないが、
命懸けの勝負で果たしてそんな事が出来るだろうか。

「そう言われてみれば確かにそうだな」
「これは仮説なんですが、もしかして二人は
『お互いに相手の手を知っていた』のではないでしょうか」
「何、それはどういう事だ?」

「つまりAはBの手が7のワンペアだと知っていたのです。
このゲームでワンペアはかなり弱い手です。
オールインすればほぼ100%降るせるだろうと思っていた。
しかしBもまたAの手がストレートフラッシュだと分かっていたのです。
分かってさえいれば、ワンペアでもなんでもスナップコール出来ますからね」
「それじゃあつまり・・・」
 
俺は頷いた。

「そうです、CがAとBの両方にカードを教えていたのです

俺の考えた仮説はこうだ。
AとBは二人とも、密かにCを味方に引き入れようとたくらんでいた。
しかしCはAもBも選ぶことが出来ずに、結局両方に手札を教える事にした。
謂わば二重スパイだ。

「しかしあの女がまさか、信じられん・・・」
「ナマズさん、Cがポーカー素人なんて嘘ですよ。
ポーカーを知らない人間が、
ベット、レイズ、オールインなんて用語を使う訳がありません。
恐らくは八百長が出来るくらいには熟練したプレイヤーなのでしょう」

それを聞いたナマズは、はっとした顔をした。

「じゃBが姿を消したのはもしかして」
「Bは親友だったはずのAをイカサマで殺してしまった事を
後悔しているのかも知れません。
Aも同じ事をしていたとは知らずにね。
まさかとは思いますが、罪の意識に耐えられず、
Bも後を追って自殺なんて事も・・・」

俺がそう言うと、ナマズはおもむろに立ち上がり、どこかに電話をかけ始めた。

「もしもし俺だ、中津だ。昼間署に呼んだ宮田恵子だがな、
もう一度署に呼び出してくれ。それから・・・・」

ナマズは電話をしながら、軽く手を挙げて俺に挨拶すると、
そのままいそいそと店を出て行った。

もちろん飲み代は払っていない。

「やれやれ・・・」

まあ仕方がない、いつもの事だ。これで客足が戻ると思えば安いものだ。
俺は中断していたグラスを磨く仕事に戻った。



後編sideB


それから数日が過ぎたが、Bの居所は要として知れなかった。
それだけではない、あの後ナマズはすぐにもう一度Cに連絡を取ろうとしたが、
その時には既にCもBと同様行方が分からなくなってしまっていたのだ。

結局Aは自殺として片づけられる事になりそうだとナマズは言っていた。
真相は藪の中だが、当事者が誰もいないのではそれも止む無しだ。
これでナマズもしばらくは店には来ないだろう。
それは実にいい事だ。

俺は店の看板に灯をともすと、いつもの様にグラスを一つ一つ丁寧に磨いて行った。
とその時、からんと音がして扉が開いた。

「いらっしゃいま・・・」

そこに意外な人物が立っていた。

西条仁。

つまりは行方不明になっていたBだ。
だが西条は少し前とはまったく別人の様に変わっていた。
体は痩せ衰え、頬はげっそりとこけている。
深い隈(くま)に覆われたその両目だけが、
ぎらぎらと狂気じみた光を放っていた。

「西条さん、お久しぶりです」

俺が平然を装って声をかけると、西条は落ち着かない様子で店内を見回した。

「こ、ここにナマズさんは来てないか? 
お、俺はもう駄目だ。全部話す、助けてくれ!」

それはもう叫び声に近かった。

「落ち着いて下さい。ナマズさんは最近はお見えになられていません。
用事があるなら、直接警察署に行ってはいかがですか?」
「け、警察はだめだ。あそこには見張りがついている。
警察にたれこんだと分かったら、やつは俺を許さない」

やつ?

それが誰の事なのかは分からなかったが、
西条はそのやつを相当に恐れている様だった。

「分かりました。じゃ今からナマズさんの携帯に電話して
すぐここに来てもらう事にしましょう」
「助かる。けど、俺の名前はくれぐれも出さないでくれ」

俺は急いでナマズの携帯に電話をかけた。
残念ながらナマズの携帯は留守電になっており、
俺はすぐに連絡をくれるよう伝言を残した。

そうしている間も西条は店の扉から片時も目を離さず、
緊張に体を強張らせていた。
俺は仕方なく店の看板を中にしまうと、扉に鍵をかけた。

「今日はもう店じまいにします。
ナマズさんから連絡があるまで、これでも飲んで落ち着いて下さい」

かつて西条が好んで飲んでいたウイスキーを水割りにして差し出すと、
西条はそれを一気に飲み干した。
ぷはぁと息をつくと、青白かったその顔に少し赤みが戻った様だった。

「ありがたい」

西条は今にも泣きだしそうな顔でそう呟(つぶや)いた。

「やっぱり山崎さんのあの事件に何か関係があるんですか?」

俺は好奇心を抑えられずに聞いた。
本来なら一介のバーテンダーが客のプライベートに首を突っ込むのは感心出来ない。

しかし俺は自分の立てたあの仮説が正しかったのか、
答え合わせをしたくてたまらなかったのだ。

「それを誰に聞いた。ナマズさんからか?」
「この界隈(かいわい)ではもっぱらの噂ですよ。
山崎さんと西条さんが命を賭けたポーカー勝負をしたって」

それは嘘ではなかった。
この数日の内にどこから漏れたのか、そんな噂が広まっていた。
もちろん俺がしゃべった訳ではない。

「仕方なかったんだ・・・家族を人質に取られた。
勝負をしなければそちらを先に始末すると言われたんだ。山崎も同じだ。
そうでなければどうして・・・どうして親友と命のやり取りなどするものか」

西条は絞り出すようにそう言った。

俺の背筋に冷たいものが走った。
この時になって初めて、俺は自分がそうとは知らずに
深い闇の中を覗きこんでいた事に気づいたのだ。

「人質って、いったい誰に!? さっき西条さんが言っていた『やつ』ですか」
「宮田だ、宮田恵子だ」

それは思いも寄らない名前だった。
てっきり脇役だと思っていた参考人C。
しかしそのCこと、宮田恵子こそがこの事件の中心人物だったのだ。

「あいつは恐ろしい女だ。宮田恵子と言うのも本名じゃない。
恐らくは日本人でもないのだろう。やつは香港か上海か、
どこかその辺の組織とも繋がりのある、裏の世界の人間なんだ」

西条は震える声で、何があったのかを語り始めた。

「もう十年以上も前の事だ。
俺と山崎は起業して、自分たちの店を持ちたいと思っていた。
腕には自信があったから当座の金さえあれば、絶対にうまく行くだろうと思っていた。
だが、銀行がどこの馬の骨とも分からん若造に金など出してくれる訳もない。
しかしそんな俺たちに出資してくれると言う人物が現れた。
それが宮田恵子だったんだ。
金利は多少高かったが、無担保でいいと言うんだ。
俺達はすぐ、その申し出に飛びついたよ。だが、それには一つだけ条件があった」
「それが生命保険ですか」

西条は頷いた。

「だが、おかしな事にやつは保険金の受取人を自分にしなかった。
俺と山崎をそれぞれ受取人にさせたんだ。何故だと思う?」
「さあ。自分は表に出たくなかったんじゃありませんか」
「俺も最初はそう思った。日本人でない様なのは、うすうす気付いていたからな。
でも違った、そうじゃない。やつの目的は最初から金ではなかったんだ」

西条の話はなおも続いた。

「俺たちの商売は面白い様にうまく行った。
あちこちに支店を出して、金回りも良くなり、三人で一緒に毎晩遊び歩いていた。
もちろん最初に借りた金は、色を付けて返そうとした。
だが宮田恵子はそれを受取ろうとはしなかった。
元金を返済してもらうよりも、長く利息を払ってもらう方が助かるとそう言っていた。
俺達もまあそんなものなのかなと、そのままにしていた」
 
宮田恵子の目的はいったい何なのか?
俺にはまだ見当もつかない。

「ところが何もかも順調に行っていたある日、
突然うちのレストランの隣にまったく同じメニュー、まったく同じ味、
そしてうちよりも遥かに値段の安い店がオープンしたんだ。
それも一軒だけじゃない、チェーン店四軒すべてにだ」

西条の所だけではない。
山崎の経営していた店も同じ事をやられたらしい。

「たちまち俺と山崎の会社は経営難に陥(おちい)った。
その時は分からなかったが、あれはきっと宮田恵子の仕業だ。
そして支払いが滞(とどこお)ると宮田は急に態度を変えて、
貸した金をすぐにでも一括返済しろとせまって来たんだ。
その頃にはもう俺達にそんな余裕はなかった。
残っていたのはたった一つ、あの生命保険だけだ」

知らずの内に、俺はつばを飲み込んでいた。

「途方に暮れた俺達に宮田恵子はこう言ったんだ。
何でもいいから二人で勝負をしろと。勝った方は、返済をしばらく待ってやると」

もちろん負けた方がどうなるかはすぐに想像がつく。

「断る事は出来なかった。
その時には自分はもちろん、家族にも監視がついていた。
やらなければ女房や子供にも害が及ぶ。背に腹は代えられず、
俺と山崎はどちらが勝っても恨みっこなしと約束して勝負をする事にしたんだ」

それがあのポーカーだったのか。

「俺達は昔から良く遊んでいた
2-7シングルドローと言うポーカーで決着をつける事にした。
知っているか、2-7シングルドローを?」
「ええ。それ程詳しい訳ではないですが、プレイした事はあります」

「それなら話は早い。
俺もまだ死にたくはないからな、初めの内は必死で闘った。
さすがに命が懸かっているんだ、勝負はなかなか付かなかった。
良く覚えていないが十二時間以上はプレイしていたと思う。
しかし、そうしている内に、俺の中である疑問が膨らんでいった」

『宮田恵子はなぜ、俺達にこんな事をさせるのか?』

「ただ貸した金を返済させるだけなら、首でも括(くく)らせればいい。
いやそれ以前に羽振りの良かった時にいくらでも回収出来たはずだ。
それを何故、保険金を掛けたり、勝負をさせたり、
そんなまどろっこしい事をするのか。君には分かるか?」

俺は首を振った。

「俺も始めは宮田恵子の目的がさっぱり分からなかった。
だが、勝負の様子を端で眺めていたあいつの表情を見た瞬間、俺は全てを悟った」

西条の顔が恐怖に歪んで行った。

「笑ってたんだ」

ぞくり、と俺の背筋に冷たいものが走った。

「負けたら死ぬ。しかし勝っても友達を殺す事になる。
そんな葛藤に苦しみもだえる俺達の姿を見て、あいつは笑っていたんだ」

その時の事を思い出したのか、西条の身体は小さく震えていた。

「お、俺は人間のあんな表情を見た事がない。
あいつの目的は最初からこれだったのだと、その時やっと気がついたんだ」

俺にもようやく事態が呑み込めてきた。
最初から宮田恵子は二人に殺し合いをさせるつもりだったのだ。

恐らく彼女は二人の起業はうまくいかないだろうと予想していたのだ。
資金繰りに困れば二人の内どちらかは保険金に目がくらんで、
彼女の望みの行動を起こすだろうと考えていた。

しかし予想に反して二人とも成功してしまったために、
今度はあからさまな手を使って二人を潰しにかかったのだ。

「お、恐らく俺達と同じような事をされている人間は他に何組もいるはずだ。
そしてあいつは気が向いた時にそいつらに殺し合いをさせるんだ。
ただただ自分の愉悦のためだけに・・・」

ただ人が苦しむ様を見たいがために、
何年も前から用意周到に準備をしていたと言うのなら、
宮田恵子はとんでもない異常者だ。

「だがそれに気が付いた時、俺の中に言い様のない怒りが湧いて来た。
絶対にこいつの思い通りにはさせたくない。だが逃げても殺されるだけだ。
もっとあいつが悔しがる様に、あいつの計画をぶち壊してやらなくてはならない」

それが西条に残された最後の抵抗だったのだろう。
そして、西条は最後の最後で宮田恵子の計画を破たんさせるある方法を思い付いた。
それは・・・

「俺はわざと負ける事にしたんだ」

西条はそう言った。

「やつに強制されたのではなく、俺は俺の意思で山崎を生かす事にした。
やつの目的は人間が醜く争う姿を見物する事だ。
だったらカードを開いて俺がわざと負けた事を教えてやれば、やつは怒り狂うだろう。
何年もかけて準備した計画が台無しになったんだからな、いい気味だ!」

俺は西条を誤解していた事に気が付いた。
俺は今まで西条をいわゆる成り上がりの、いけすかない奴だとばかり思っていたのだ。
しかしそれは間違いだった。
西条は親友と、そして自らの誇りのために命を捨てる事も厭(いと)わない人物だった。

「山崎の打ち筋は分かっていた、あいつは自分のハンドに素直に打つからな。
だからあいつがオールインして来た時、これは相当な強さのハンドだと思った。
その時の俺の手は7のワンペアだ。
間違いなく負けている。そう確信して俺はコールした」

その後の展開は俺も知っている。
そう、山崎の手はストレートフラッシュだったのだ。

「目の前が真っ暗になったよ。
あいつも、山崎も同じ事を考えていたんだ! 
わざと負けて、俺を助けようとしてくれたんだ!」

西条の慟哭が店の中に響いた。
西条は傍らの俺の目も気にせずに、しばらくの間子供の様に泣きじゃくっていた。

「・・・しかし、俺が真に恐怖を感じたのはその後だ」

西条の手にしたグラスの中で氷がカチカチと音を立てて、
小刻みに震えていた。

「山崎が決死の思いで下した決断、そして開かれたストレートフラッシュ。
だがそれを見て、それを見てやつは・・・」

狂った様に大きな声で笑い出したんだ。

「やつは腹をかかえて笑っていた。どうして? 
俺達は、山崎は、あいつに一矢報いてやったはずなのに・・・」

計画を潰されたにも関わらず、宮田恵子は笑っていた。
それはいったい何故なのか。

俺には思い当たる事が一つだけあった。
だがそれを西条に告げるのはあまりにも残酷だった。

「なぁ何故だ、何故宮田恵子は笑っていた? 
君のその顔は、何か分かったんじゃないのか?
分かっているなら教えてくれよ」

ぐちゃぐちゃな顔で西条は俺の胸ぐらを掴んで詰め寄って来たが、
俺にはどうしても答える事が出来なかった。

しかしそうしている内に、ふいにその手がゆるんだ。
もし絶望というものに色があるとするなら、
西条の目に浮かんでいるのがきっとそんな色だった。

「まさか、俺達がそうする事すらもあいつの想定内だったのか? 
俺達はただあいつの掌(てのひら)の上でもて遊ばれていただけ・・・」

俺の思い付いた答えも同じだった。
恐らく宮田恵子は、あまりにも自分の書いたシナリオ通りに事が進んだので、
それで笑ったのだ。

「じゃ、じゃあ山崎は無駄死に? 
何て事だ・・・ああ山崎、山崎ぃ!!」

西条の叫びは悲しみと怒りと、そして言い知れない恐怖に包まれていた。

「落ち着いて下さい西条さん、まずはナマズさんに相談してみましょう」
「山崎が死んでも俺の借金が消えた訳じゃない。
次はまたどんな目に合わされるんだ。お、恐ろしい・・・」

俺にはすでに、西条にかけるどんな言葉も持っていなかった。

その時、店の扉がノックされた。
「俺だナマズだ。いるのかエイジ?」
「ナマズさん!」

俺は正直ほっとしていた。
事態はもう俺のどうにか出来る範囲を超えていた。
ふいにぽっかりと足元に大きな穴が開き、
それに足を掬(すく)われない様にするので精いっぱいだった。

俺は急いで鍵を外し、店の扉を開けた。
しかしその瞬間、急に俺の目の前が真っ暗になった。

何か、にぶい音と頭に強い衝撃があったような気がするが、
それすらもあっという間に分からなくなった。
薄れ行く意識の中で俺はある事を思い出していた。

ナマズは自分で自分の事をナマズとは呼ばないと・・・。


「おいしっかりしろ、エイジ。どうしたんだ、目を覚ませ」

気がつくと目の前に、口髭を生やした刑事がいた。
今度こそ本物だ。

「さ、西条さんは?」
「何っ、西条がここにいたのか」

頭が割れるように痛かった。
後から分かった事だが、俺が意識を失ってから目を覚ますまでに
三時間以上経っていたらしい。
もちろん西条の姿は既になかった。

それから西条が、そして宮田恵子がどうなったのかを俺は知らない。
ナマズはそれについて何も話さないし、俺も知りたくもなかった。

今でもふいに店の扉が開くと、
そこに西条が立っている様な気がしてぎょっとする事がある。
しばらくはそんな感覚に悩まされるのだろう。

きっとそれは面白半分に探偵の真似事をしてしまった代償なのだ。

人にはその身の丈に合った分と言うものがある。
その分からはみ出してしまえば、そこには奈落が待ち受けているのだ。

俺はただひたすら無言でグラスを磨き続けた。


  <了>

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さていかがだったでござるかな?

ライトな謎解きかと思いきや、後半のホラー&サスペンスを
楽しんでいただけたら幸いでござる。

実はこれを書いたのは今からもう3年近く前、
ポーカー探偵JJシリーズの前に書いていたやつなのでござる。

訳あってポーカーを辞め、バーテンダーをしている主人公が
ナマズ警部の依頼で事件を解決していくという話だったのでござるが、
いきなり扱っているのがドマイナーなポーカー2-7SDで、
話の展開も暗くなってしまったのでボツにしたのでござる。

う〜ん、前回といい暗い話が続いたので、
次回はもうちょっと明るい話にしたいでござるな。

それでは今宵はこれまで、次回まで御免!!





posted by 桃太郎侍 at 22:19| Comment(0) | ポーカー小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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